書について -鑑賞の案内-
書とは
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私たちは、言語や伝達をもって多くの人たちと交流し、自らの意思表示も出来るが、社会生活が進むにつれ、時間、空間を超えて、より正確な伝達ということになると、文字をもって記録することが必要となる。文字は言語記号として現実的にも、歴史的にも重要な役割を果たし、文字による記録が歴史、学問を成立させている。文字抜きには現代の生活は考えられないし、多くの記録の積み重ねが私たちに、より豊かな文化を与えてくれている。この文字の記録ということが洗練された究極のところで、一つの芸術"書"を生み出している。
「書は文字を素材とする芸術」とか「文字を美的に表現した芸術」といわれている。つまり、符号にしかすぎない文字に芸術的意志を働かせ生命を与えたものが書なのです。そこには、作家の美の理念にもとづいた感覚、形象による多様な表現が行われている。そして、書作品には、その作家の人間性がそのまま素直に表現され、生き方、思想、人格が反映されている。書は、書く者、見る者に人間としての生き方を問いかけているのです。
書の特質
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文字性
書は、文字(漢字、かな)の構造が、芸術として成立した大きな要因となっている。その文字を素材としているから、書はこれを造形化して視覚に訴えてくるのです。
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線構成
書は線の芸術だと言われる。太い、細い、強弱、軽重、緩急などさまざまな線が、書者の心の動きを内蔵しながら引かれていく。それは書者自身の心の形象化となって独自の表現を生み出しています。
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一回性
文字、語句、詩文を書く時、始めから終わりまで順序良く書き進めて行き、一回だけで書き上げるものです。この一回性が、一貫した書者の生命の躍動や呼吸感を時間と空間を捉えながら書き表されていくのです。よって、高い精神の緊張と集中力が要求されます。
このような主な特質が考えられ、「書はその人の如し」「書は心画なり」などといわれるように、書には書者の人間性がそのまま表われ、引かれた一本の線にもその心情を見るのです。唐の張瓘は「書の作品や文章でもっともすぐれ奥深い意義を持つものは、皆、深い考えや意志があって自然にその気が現れている。」と述べています。また、日本の尊円親王は、「字や形は人の容貌、筆勢は人の心のひらめきだ。」と言っております。書はその人の心情がそのまま表現され、個性的で高い精神性も問われる芸術とも言えるのです。
現代書の表現
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書は中国に始まり、日本、韓国など漢字文化圏に行われてきた東洋的な芸術ですが、社会の発展に伴い、最近では素材や技術の幅が広がり、内容、形式も豊富になり、新たな書芸術の展開が試みられています。そのような現代書の中で、書道文化の向上と書の芸術性、今日性を追求し、日本だけでなく、世界に向かって書の美を発信してきたのが毎日書道会です。毎日の書は、伝統の書から現代書まで、七つの部門に分けられています。
作家は各部門の中で自己表現をし、作品を発表していることが多いのです。
鑑賞の心得
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書の作品は、その作家の生命の軌跡であり、作家の魂がそこに凝結している。作品との出会いは作家との生命の触れ合いです。直観的に見るか、分析的に見るかそれは自由です。書を構成している基本的な要素を汲み取るのも一つの方法で、それは形態の美、線質の美、律動感、力感、余白などです。まず、作品に向かい、距離を十分に取り、全体を見つめて下さい。黒と白のバランス、文字と空間の調和、字形の疎密、軽重の変化など全体的構成を見て、次に線を見て、太い細い、方向、潤渇などそこから生まれる作家の心情を感じ取ることが大切です。
このたび展示された作品は、伝統書から現代書までのあらゆる分野の書を包括しています。現代日本の書を代表する第一線の作家が、渾身の力を込めて創作した最新作ばかりです。日本の書芸術の真髄を理解し、堪能できるものと確信しております。