新機軸を打ち出す毎日展
【停滞から再躍進へ】
新生毎日書道展の復元力は目覚ましかった。それには、いくつかの改革が伴った。昭和60年(1985年)の第37回展から従来の「少字数書部」が「一字書部」に生まれ変わり、新しい造形を求めた。
昭和61年の第38回展からは、漢字部をI類(字数21字以上)とII類(2字から20字以内)に分けた。II類での大字の表現への挑戦を期待するとともに、このことで、公募が急増した漢字部の鑑別・審査が迅速に進められるようになった。
その他の改革、書家の熱意もあって、第38回展での公募作品数は21,891点と、毎日展始まって以来の最多点数を記録し、大量移籍前の第35回展での公募点数を回復、凌駕した。公募作品はその後も順調に増え、昭和63年(1988年)の第40回展では25,181点と、2万5千を突破するまでになった。
東京展を含む本展の全国展開は、第37回展で「中国展」が復帰、第38回展では「四国展」が復帰したほか、「東北展」が新設され、本展8会場制になった。その後も平成2年(1990年)の第38回展で東北展を「東北仙台展」と「東北山形展」に分離、「北陸展」も新設されて、本展10会場制になり、50回の記念展を迎えた。この平成2年には、金子鷗亭(財)毎日書道会理事が文化勲章を受章したが、近代詩文書を含む書業が認められて、現代書には大きな意義のある受章だった。
毎日書道展の本展10会場の所管地は次のとおりである(第50回展現在まで同じ)。
東京展 茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、新潟、長野、山梨、静岡の各都県と海外
北海道展 北海道
東北仙台展 宮城、岩手、青森の各県
東北山形展 山形、福島、秋田の各県
東海展 愛知、岐阜、三重の各県
北陸展 富山、福井、石川の各県
関西展 京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、滋賀の各府県
中国展 鳥取、島根、岡山、広島の各県
四国展 徳島、香川、愛媛、高知の各県
九州展 山口、福岡、佐賀、熊本、長崎、大分、宮崎、鹿児島、沖縄の各県
【表彰制度の新設など】
毎日書道展の入賞は、会員対象のグランプリ「会員賞」と公募作品を対象にした「毎日賞」「秀作賞」があり、賞状と副賞が贈られてきた。昭和60年(1985年)の第37回展から、この「会員賞」「毎日賞」受賞者の中から選抜して「中国への書の研修視察団」を派遣することになった。 第1回派遣団には会員賞2人、毎日賞11人が選ばれ、10月に中国・北京、洛陽、漢中、西安、上海を回り文物、磨崖などを研修した。団員の間には帰国後も書の部門・会派を超えて交友が続き、書作活動に刺激を与えあっている。 「研修視察団」の派遣は、その後も毎年続けられている。
平成3年(1991年)の第43回毎日展からは「文部大臣賞」が新設された。書の展覧会では、文部大臣賞は日展での授与だけだったが、同じ歴史を重ねる在野の毎日展にも授与されることになった。当該年度の毎日書道展に出品された公募作品、役員作品など全作品を対象に選考され文部大臣に申請される最高の賞に位置付けられた。第1回は、大平山涛(財)毎日書道会理事の近代詩文書作品が受賞した。
また展覧会表彰とは別に、昭和63年の第40回記念展から「毎日書道顕彰」制度が発足した。書道に関する芸術・学術・教育の振興に著しく貢献した個人、およびグループを(財)毎日書道会が顕彰するもので、その後「毎日書道顕彰奨励賞」も加えられた。第1回では飯島春敬 (学術)、比田井南谷(書道芸術)両氏が顕彰された。
これらの表彰・事業は財団法人としての毎日書道会の基盤が安定し、展覧会も役員書家の努力と、毎日新聞社との共催で緊密な運営が確立したことにほかならない。 1990年代には、国内外で本展以外にも事業展開できる力を蓄積していく。
【国内啓蒙活動と海外展】
国内での現代書啓蒙・振興のために、本展の開催されない都市での巡回展も活発に催されるようになった。 昭和60年(1985年)には、「毎日現代書道展」が8月の松江市を皮切りに翌年4月末まで、高松、松山、福山、旭川、苫小牧、北九州、長崎、前橋、仙台、秋田の11都市で巡回展示された。役員書家の出品作品は、7部門72点だった。
巡回展は、第45回展を記念して、平成5年(1993年)から翌6年にかけても福山、高知、松江、金沢、大分、郡山、前橋、帯広、旭川、長岡の10都市で開催された。巡回役員作品に、地元書作家作品を加えたり、講演会を開くなど全国巡回展「毎日現代書展」として面目を施した。
このほか昭和61年1月には、大阪市で「毎日現代書関西代表作家展」が開催された。関西での毎日書道展の体制強化のため、関西2府4県の毎日展審査会員、会員の新作110点と毎日書道会理事作品6点を展示、併せて「春敬記念書道文庫」所蔵の古筆を「平安の名筆」として特別陳列した。この代表作家展は、毎年続けられて関西での初春の風物になっている。
海外展は第30回展記念の「パリ展」以来10年ぶりに、第40回毎日展を記念して昭和63年(1988年)4月から、翌平成元年12月まで北京、上海、ミュンヘン、ウィーン、オッへンバッハ、モスクワ、ゲントの7都市で巡回開催された。さらに平成2年(1990年)から翌3年にかけては、毎日展の選抜書家による85作品の「日本の現代書」展がフランクフルト、コペンハーゲン、サンクトペテルブルク、ミュンヘン、ベルリン、ダブリン、ベルファストの7都市を巡回した。これらの海外展は、芸術としての現代書を強く印象づけた。ことに中国での開催は初めてであり、各書団体の独自の交流も加わって、やがて東アジア各国で、書の国際交流が盛んになるきっかけになったともいえる。